人気のセレクトショップ「Daja」ディレクター 板倉直子さんが語る「マカラスター」の魅力と、大人のおしゃれ

おしゃれとは、新しさを追うことじゃない。
音楽や器やおいしいものと同じ、生活の一部。

島根県松江市に「Daja」というセレクトショップがあります。山陰の小さな街にあるこの店に、今、日本各地からお客様が訪れているのだとか。4年前に、40代以上の女性のためのおしゃれマガジン「大人になったら、着たい服」(主婦と生活社刊)で取材されるや否や大評判となった店主の板倉直子さん。実は彼女が選ぶのはいたって普通の服です。ベーシックな1枚を手に入れれば、今あるワードローブが2倍、3倍と働き始める……。そんな知的なスタイルを真似したい、と憧れる女性たちが増えているそう。そして、板倉さんが、この秋冬のアイテムとして注目しているのが、スコットランドの老舗ニットウェア「マカラスター」です。長く作り続けられているものには、必ず理由があります。板倉さんにとっていいものを長く使うことの魅力は何なのか、3回に分けてじっくりお話を伺うことになりました。第1回は、板倉さんご自身のこれまでの歩みと、ご自身のスタイルづくりについて聞きました。

板倉直子さん

洋服は、いたって普通でいい。
ベーシックなアイテムで「考える」おしゃれを

「Daja」は今年創業30周年を迎えます。この店に最初はアルバイトで入り、38歳の時に店ごと買い取って独立。今では経営者、ディレクターとして忙しい毎日を送る板倉さん。まずは「Daja」ってどんなお店ですか?と聞いてみました。

板倉:トラディショナルがベースの、本質的で長く着られるものを提案するお店です。私自身華やかではないけれど、日々の暮らしが楽しくなるような、洗っていくたびにさらに心地よくなっていくような服が好き。そういうものをお客様にも提案していきたいですね。

20代の頃から好きだったのは、白シャツ、デニム、チノパン、トレンチコートと、トラッドなアイテムが中心だったそう。当時はバブル全盛期。一目で価値がわかるDCブランドでもなく、若い女性にありがちな“もて服”でもない…。板倉さんが「普通の服」に惹かれたのはどうしてだったのでしょう?

板倉:若い頃は、洋服よりカルチャーに興味があったんです。当時よく見た映画で、私がいいなと思う登場人物はみんな、普通の服をかっこよく着こなしていました。かっこいい服をかっこよく着るって、なんだか気恥ずかしいけれど、普通の服を着て、かっこよく見えるという逆説的な感じが、魅力的だったんだと思います。20代の頃に夢中になっていたイギリスのバンド「スタイル・カウンシル」のボーカル、ポール・ウェラーが履いていた「JMウエストン」のローファーに憧れて、初めてパリに行ったとき、「JMウエストン」の靴を2足買って帰りました。でも、当時の私にはまだその靴が履きこなせなかった……。どうしたらいいだろう?と考えて、オックスフォードのボタンダウンシャツやチノパンと合わせてみたり。そうやって、少しずつ「普通」を研ぎ澄ませていった感じかな。

頑張らないオシャレ

年齢とともに変わる装いのセオリーを
2冊の著書で提案

実は、「Daja」はもともと板倉さんのお店ではありませんでした。都心に憧れ、大阪の古着屋さんなどで働いたのち、田舎に戻って仕事を探していたときに、たまたまオープニングスタッフとして手伝って欲しいと声をかけられ、アルバイトして働き始めたのだと言います。

板倉:当時のDajaは、今とは全く違うアメリカンテイストのお店で、ひとりで店番をしていても、1日中ほとんどお客様が来てくれませんでした(笑)どうしたらいいんだろう?と自分なりに考えて、掃除を徹底してやったり、好きな音楽をかけたりと工夫をし始めたら「Dajaって面白いね」と言ってくださるお客様が1人、2人と増え始めました。お店ってこうやって変わっていくんだ、ということを経験できたのは、すごくよかったと思いますね。

その後、38 歳で店を買い取り独立。今は、仕入れから、ウェブショップのための撮影、説明文の執筆、接客、日本各地で開催されるイベントへの出店と目の回るような忙しさです。
4年前には初めての著書「大人のためのかしこい衣服計画」を、昨年には2冊目になる「頑張らないおしゃれ」を出版しました。

板倉:女性は「考えるおしゃれ」が苦手なんですよね。「あ、これかわいい!」って感覚で買ってしまうんです。そうすると、クローゼットに服はたくさんあるのに、今日着ていく服がない……。「大人のためのかしこい衣服計画」は、ベーシックな基本アイテムを1年を通してどう構築していくか、というテーマで作りました。その後4年が経って、私自身も50代になったら、今度は年齢を重ねたことで洋服の着方が変わってきました。同じ白シャツでも、ゆったりとしたものを着ることが多くなったんです。そんなちょっと肩の力を抜いたおしゃれの提案が「頑張らないおしゃれ」です。

マカラスターのニット

島根の冬はイギリスのカントリーサイドと似ています。
だから、「マカラスター」のミドルゲージニットがぴったり!

20代の頃から、お金を貯めてはフランスやイギリスに行くのがライフワークだったという板倉さん。イギリスで初めて出会ったのがブリティッシュニットでした。

板倉:島根は寒さが厳しいんです。冬は晴れた日が少なくて、空もずっとグレーなので、アイルランドやイギリスとちょっと似ているかもしれませんね。寒く湿度が高いので、洗濯物もなかなか乾きません。私がブリティッシュニットが好きなのは、暖かいけれどさらっとしているから。特に「マカラスター」のニットは、ふんわりと軽くて柔らかいですよね。そして、何回洗ってもへたらないんです。丈夫で毛玉も出来にくい。普通のウールとどう違うんだろう?と調べてみたら、吸湿・放湿性が高いんですね。それが結果として着心地の良さにつながっていることを知りました。暖かいのに暑すぎなくて、不快感がないんです。呼吸ができるっていう感じかな。

「マカラスター」は、スコットランドで3代に渡りニットウェアを作り続けてきたマッキノン家のアラステア・マッキノンが、1981年に新たにハンド・フレーム製法に特化した工場の設立と同時にスタートしたファクトリーブランド。同工場では、名立たるハイブランドやセレクトショップのニットウェア生産を行なってきた実績もあり、それらの要望に答えながらものづくりをしてきた背景を持つからこそ、スコットランドの伝統的なニットブランドとは一味違う、モダンさを兼ね備えているのが特徴です。
ハンド・フレーム製法とは、手編みほど温度が高くなく、機械編みほどそっけなくもない。そのほどよい塩梅が、「マカラスター」の個性となります。ハンド・フレームは、ミドルゲージにむいていると言われています。

板倉:島根の冬は寒いので、ハイゲージより、ミドルゲージやローゲージニットをテーパードパンツに合わせてよく着ますね。もちろんワイドパンツと合わせたボリューム感のある着こなしも好きです。イギリスのカントリーサイドの洋服は、山陰の冬の暮らしにとても合っていると思います。ローゲージニットにダッフルコートを組み合わせるのが、私の冬の制服ですね。

ドレイクスのマフラー

20年前に買ったマフラーを今でも愛用。
時とともに「育てる」というスタイルもある

板倉さんが、20年前に買ったというイギリスの老舗メーカー「ドレイクス」のマフラーを見せてくれました。

板倉:これ、カシミアなんです。30歳になった頃すごく背伸びして買った思い出の一品です。名品と呼ばれるものを少しずつ頑張って買ってきました。今でもずっと愛用しています。奇を衒わずに代々作り続けられている、というのがイギリスの魅力だと思います。長く使ってからわかるよさってありますよね。

一方3年ぐらい迷いに迷って、やっと買ったというのが「ジョンストンズ」の赤のチェックのカシミアストールだったそう。

板倉:本当に買ってよかったと思います。もう5〜6年使っているんですが、洗うごとにカシミアの毛が起きて、ふんわりしてきました。お客様にも、経年することで生まれる美しさをちゃんと説明することで、値段は高いけれど、それ以上の「愛着」が生まれるとお伝えしています。

 

おしゃれはファッションじゃない。
寝ること、食べることと同じ、暮らしに必要なもの

最後に板倉さんにとって「おしゃれ」とは?と聞いてみました。

板倉:私にとっておしゃれとは、ファッションじゃないんです。おしゃれは、食器や映画や食べ物と同じもの。特別なものではなくて、日々暮らしていく中で必要なものなんです。だからこそ、お気に入りのアイテムを持っていたり、自分がきれいに見えるスタイリングを知っておくと、毎日が楽しくなるのだと思います。

実は今年9月にお店をリニューアル。今までよりひと周り小さくしたばかりです。

板倉:仕事の量を減らすために、意図的にお店の面積を半分にしました。ここ数年企画の仕事や各地への出店の要請が増えて、忙しくなりすぎてしまったんです。このままいったら、クオリティが保てなくなるかもしれないと思って、何かを手放す必要を感じました。新しいお店はフランスのハーブ薬局のようなイメージもあるし、古いヨーロッパのどこかの街角にいるような感じもあります。素敵に小さくしたので、リニューアルしてより愛情が深くなりました。これからも、自分のペースでおしゃれの楽しさをいろんな人とシェアできれば幸せです。

こちらのアイテムは輸入代理店直営BRITISH MADEのオンラインショップにて販売しております。

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Profile


「Daja」ディレクター 板倉直子さん
島根県松江市のセレクトショップ「Daja」ディレクター。古着店勤務、会社員を経て「Daja」に入社。仕入れから販売まですべてを任される。38歳の時に店を受け継ぎ、トラディショナルをベースに自分らしい着こなしを提案し続けている。日々のコーディネートを紹介するインスタグラムも人気。2019年9月店をリニューアルオープン。著書に「大人のためのかしこい衣服計画」「頑張らないおしゃれ」(ともに主婦と生活社刊)がある。
http://www.allo-daja.com/
www.instagram.com/itakuranaoko

photo Masahiro Yamamoto text Noriko Ichida